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新しい物語の癒しのかたち

安心したり、落ち着いたり、

にこやかになったり、

そういう「癒される~」ってのがありますよね。

 

それとは別に

映画や小説、アニメなんかを見て

登場人物に感情移入したりして

登場人物が過去のトラウマを癒していくストーリーに

共感して、自分の過去も癒されたりっていう

そんな「癒し」もありませんか?

 

中身はざまざまだとしても

この二種類の癒しは、やはり別物だなあと思うのです。

 

前者のには「物語性」がないんですよ。

それに対して後者は、「物語性」あってこその癒しなんです。

 

その違いに気付いたのは

今年の夏の後半でした。

 

猛暑が続くある日の午後、ふと手に取った

昔読んだ小説・・・

 

かつて読んだ通り、感動もしました。

言葉の運び、ストーリー展開の巧みさに感心もしました。

 

ただ、読後感が・・・何か違和感。

 

はて、なんだろう?

と考えてみました。

 

とにかく、気持ちが重い。

いい話で、感動もしているのに、重い。

 

もう一つ、昔見た映画を見直したときのこと

これも、とっても感動し、涙なんかも出たりして

だけど、見た後の気持ちの重さが

「何?・・・これ・・・」状態だったんです。

 

思い返せば、昔読んだとき(見たとき)も、

やはり後味は重かったんです。

(後味が悪いのではありません。重い、です。)

でも、その後味の重さがまた良かったというか

酔いしれる感じ?

そういうのを味わいたくて、何度も読んだものです。

 

でも、今はもう読みたくないと感じる・・・

何だ?これは・・・。

 

最近、ようやくその原因に思い至りました。

 

これらの、かつて私を癒してくれた小説や映画は

ブロック解除だったんだって。

 

実は、ブロック解除にはキリがありません。

一つ見つけて解除すれば、その時はスッキリするけれど

また次が出てくる。

でも、解除時の気持ちよさが癖になると

ブロック解除ループにはまります。

 

ブロック解除の全てを悪いとは思いません。

慰められる必要も、生きてる内にはあって当たり前だから。

 

ただ、ブロック(過去の否定的状況)に意識が向いてしまうと

それが解放されたとしても、

別のブロックに意識が向きがちになるというのも事実です。

(意識が否定的な方向に向いちゃってるから)

 

そして、大事なことはもう一つ。

 

ブロック解除による「癒し」「慰め」は

気持ち(感情)としては、重いんです。

 

中には、ブロック解除にとどまらず、

安心感と落ち着きを取り戻し、

優しく微笑むような

軽い気持ちまでもっていってくれる作品もあると思いますが

それは(もしかしたら、一般大衆に)あまり受けが良くないかもしれません。

 

なぜなら、酔いから醒めてしまうからです。

深刻になって悩み苦しんだ自分が馬鹿らしく思えてしまう、

みたいな醒め方です。

肩の力が一気に抜けて、フニャ~っと笑みがこぼれるみたいな。

 

そして、ああ、それも良かったなあって。

懸命に深刻になって生きた自分が愛おしい、みたいな。

 

この感じを知ってしまい、何度か繰り返しその体験をすると

ブロック解除(過去の癒し)は重いなあって

そういう重い感動は、もう味わいたくないんだよなあ

って、思えてきてね。

 

感動って言っても、色々だなあ、なんて。

 

多くの人は、「過去」を癒してくれる物語を好むと思います。

私もそうでした。

 

だけど、日常の中で、周囲を見渡すと

過去を癒すのではなく、「今」に癒しを与えてくれるものが

無数にあるんですよね。

なかなか気づかなかったりするけれど。

いえ、気づかない内に私たちは

それらに慰められているのですけれど。

 

「過去」の癒しは

「物語性」の中に生きているときに必要となり

「今」の癒しは

「物語性」から抜け出たときに、あちこちに見つかります。

 

これまで小説を書いてきて

これからも書き続けようと思っている身としては

「物語性」を脱却した、新しい物語を語りたいものだなあと

そう思います。