今は昔、自称神様といふ男ありけり。
民草に吾を崇め奉らせむとて、言の葉なるものをば考案しけり。
(面倒くさいので、以下現代語訳)
自称神様は(これも面倒くさいので、以下「自称」は省略)、
人間達に「言葉」を与え、物語を作らせることにしました。
人間は、神様の思惑通りに「言葉」を受け取りましたが、
それを使って物語を作ることができる人間は、少数でした。
しかし、それもまた、神様の思惑通りだったのです。
物語を作る人は、それぞれが自分の作った物語の主人公となり、
その他大勢は登場人物として、誰かの作った物語の中に入りました。
物語を作る人は、自分という主役を引き立ててくれる
準主役や敵役、端役、その他名も無いモブ役を募集しました。
沢山の物語が、このようにして構成されていきました。
長い歴史の中で、物語は、流れに浮かぶうたかたのように、
消えては浮かび、浮かんでは消えていきました。
中には、モデルチェンジを適宜行いながらも、長く続く物語があります。
それは神話と呼ばれました。
近年、トレンドに上がってくる物語に人々は敏感に反応するようになり、
誰もがそれらの物語に参加したくて、競い合うように募集に応じました。
「今、一番熱い物語はコレ!☝️」
と、人々は詐欺まがいの広告にも騙されて、
自分に似合いそうな役柄を求めて、入る物語を選んでいきました。
主要登場人物に抜擢される者もいますが、役には限りがありますから、
ほとんどはモブに甘んじなければなりません。
それでも
「乗り遅れたら大変!」
と
トレンドに乗っかる人は後を絶ちません。
「物語は見るだけじゃつまんない」
「私もその中で華々しくいきるのよ」と。
ところが、神様にとって、予期せぬことが起こり始めました。
モブをやめて物語を抜け、どの物語にも属さない人々が続出してきたのです。
彼らはもう、物語の登場人物でいることに飽き飽きしていたのです。
それがたとえ主役でも。
だから、彼らは自分で物語を作ることも断固拒否しました。
「準主役がもらえる?…誰にもらうんだよ!」
「自分の物語は自分が主人公?…いらんし。」
「物語がナンボのもんじゃい!」
と、物語世界から潔く去ったのでした。
彼らはそれぞれ楽器を手にして、音楽を奏で始めました。
口笛もありました。手拍子、腹太鼓もありました。
流浪の旅を続ける者もいるし、一カ所に留まる者もいました。
観客は、いません。
なぜなら、彼らが出逢えばすぐにセッションが始まるからです。
観客に徹する者など一人もいませんでした。
そんな地上の様子を見て、神様は由々しき事態だと思いました。
モブ役が少ないと盛り上がらんじゃないか、と。
神様は次々と手を打ちましたが、民草たちの物語離れは加速度を増していきます。
更に困ったことに、彼らは神様が与えた言葉を、その意味通りに使ってくれないのです。
中でも神様が一番ショックを受けたのは、
彼らの間で「神!」というのが、神様を指してはいないとわかったことでした。
神様の作った言葉の意味が、認識が、どんどん崩れているのです。
ついに、地上では、神様を神様と認識するのは、
「神様を崇める物語」と
「神様を敵扱いする物語」
の中の登場人物達だけになってしまいました。
神様は、とっておきの作戦に出ました。
それは、
「人類滅亡の危機(からの脱出)」というテーマをトレンドに上げることでした。
科学界という物語世界、宗教界という物語世界、経済界という物語世界等々で、
滅亡のテーマは猛威を振るいました。
スピ界隈ではパンデミックが起きたと言います。
しかし、物語世界から抜け出した者達には、どこ吹く風でした。
神様は、もう打つ手がありません。
「人類滅亡」という伝家の宝刀を抜いてしまったのですから。
さて、困り果てた神様ですが
しばらくうつむいていた後、厳かに顔を上げました。
ここで問題です。
その時の神様は、どんな顔をしていたでしょうか。
次の選択肢からコレ☝️と思うものを一つ、テキトーに選びなさい。
a そのまま困り顔。😥
b 性懲りも無く、モブを集めようと笑顔で優しさアピール。
c 開き直って、威厳ある顔を取り戻した。
d 機械のような無表情。
(最後くらいは古文調に戻してみる。)
どれを選びしかは、その人のみぞ知る。
神の知るところとはならぬが通り、と
のちの人々、口ずさみけるとかや。