彼方へ  14編


鳥のうた

あなたは  小鳥

 

羽根を  ふるわせ

喉を  ふるわせ

 

虚空に  さざ波を 生む

 

ほんのささやかな 波紋が 

またたくまに 夏空へと ひろがっていく

2022/7/13

 


言の葉のダンス

 

言の葉 風に吹かれて ダンスする

謳い 舞いおどる 

木の葉のように

 

定まった動きは 一つもなく

右にならえ の号令もない

 

誰も、誰の真似もできない

 

振付師のいない ダンス

 

2022/7/15


toiを放つ

問いは、鳥の形をしている

胸を開いて、両手を広げて

空に放てば いい

 

外をごらん

 

問いという鳥を手放せば

空間が応えてくれるから

 

空間は

あなたの知らないあなた自身

 

あなたの問いの全てに

全方向から 応えている

2022/7/20


青鷺が潜っている

夏に吹く北の風は たいてい 爽やかで

この北風は 何を連れてくるのだろう?・・・と

胸が躍る

いつもなら

 

しかし

今日の北風は 生ぬるい

何があったのだ?

と、烏に尋ねた

 

「どうやら青鷺が潜っているらしい」

 

「青鷺が 水面から顔を上げるまで

しばらく 呼吸を鎮めて

待つがいい」

 

物知り烏でさえ、

次に起きることの 予想は立たないようだ

 

それもそうだ

自由とは、そういうものだ

 

2022/7/22


白い 世界の橋渡し

橋は

歩くことで 架かっていく

 

最初の一歩を 踏み出す前は

まだ、足掛かりさえない

完全な宙

 

一歩、二歩と

歩を進めていくことで

橋を作っていく

 

一歩目が宙なら、二歩目も宙

三歩目も、四歩目も・・・

白い靄の中に 足を踏み入れていく

しかも、空中で

 

どこに辿り着くものか わからない

ただ

踏み外すことだけは 決してない

 

なぜなら、橋は 

あらかじめ 架かっているわけではないから

あなたの一歩が 橋を架けていくのだから

 

だからと言って、

真っ新な白紙に 人生を描くようなものだとは

考えないでほしい

思い通りに、自分の人生を描け

夢を描けと 言っているのではないのだ

 

怖れずに

ただ、その一歩を 宙に踏み出すことができたなら

その意味も わかるだろう

 

白い 世界の橋渡し

今日からの 13日間

橋は どんな世界を つなぐだろうか

 

2022/7/23


青鷺が北極星に渡したもの

青鷺は

確かに 何かをとらえた

そのくちばしに 咥えたものが何だったのか

あまりに素早く飛び立ったので

誰にも わからなかった

 

その日

青鷺は 朝から水に潜っていた

水面に姿を現すまで

私たちは、みな

息を沈めて 静かに待ったのだ

 

夜になって、いよいよ

青鷺が 顔を見せた

川面に 光るしぶきを上げながら

彼は 飛翔した

 

目指すは 北極星

 

「あれを 熊に 預けるのだな」

 

そして、風が変わった

熊が それを しっかり受け取ったのだと

そのとき 烏は 知った

 

赤い空歩く人から

白い世界の橋渡しへと

移行はすみやかに 行われた

 

2022/7/23


青鷺から渡されたもの

北の窓から 乾いた風が吹き抜ける

青鷺は 仕事を果たしたのだ

何かを くちばしに咥えて

夜空高く 舞い上がる

北極星に向かって

 

私は 深く息をする

今夜は 熊にいだかれて

眠ればいい

 

青鷺からバトンタッチされたものは

いまや 熊の手の中に

2022/7/23


時間を外した日、前夜

今夜は 心しずかに

鼓動に耳を かたむけよう

特別な日などないと

わかってはいるけれど

毎日が特別だと言えば それまでだけど

 

今夜は 星が降るから

 

地上に星を 積もらせて

じっと、目に焼き付けて

瞳が 輝きだすまで

窓を開いて いよう 

 

2022/7/25


見えない心臓

見えない涙は

赤い色をしている

 

心臓からおくられた

生きてる証

それは けして 傷ではなく

 

体を失っても なお

鼓動は 続くから

 

いくたびも

走る心に 鍵をかけ

名付けることで 閉じ込めた

箱の中には

見えない心臓

そっと耳をつけ 鼓動に合わせて

呼吸する わたし 

 

2022/7/28


聞こえない鼓動

聞こえる音が 

聞こえない音に 触れているなら

 

私の声も 

あなたの 見えない鼓膜を 

確実に 

ふるわせているのでしょう

 

2022/7/28

 


足裏で聞く土の響き

伝えたい、という思いが

邪魔になる

 

通じないもどかしさに

耐えられなくて

たたみ掛けるように 

説明してしまうから

 

伝わるのは 通じたときだけ

 

「通じる」とは

あなたとわたしの足の下

土の中に 道ができること

 

2022/7/29


月の舟は銀河を渡る

 

旧暦 七月七日、 今年は8月4日

もう、舟にしか見えない 半月の一日手前の月

翌日の 上弦の月から

月の舟は 猫を乗せて 

こんなにも美しい 銀河を渡る

 

七日後の十五夜に

あなたに会うために

 

旧暦のお盆は

月の舟が、彼方に渡った者たちを

あなたの元に、ほんのいっとき

連れ戻す期間

 

七夕とは、月の船出を言祝ぐ行事であったのだ

 

2022/7/30


獅子座月間、ばく進中

7月29日、獅子座で新月🌑

ただ今、獅子座月間、ばく進中

翔け抜けよう

風を切って

 

腹の底から 

燃え上がるような 獅子の咆哮を

君の喉を通して その口から 空間に

解き放っておくれ

 

君も おいでよ

僕たちの 夏へ

2022/7/31


お前の心臓に用がある

「お前に用はない。

お前の心臓に用があるんだ。」

 

2020年の11月、夢の中で

黒いサングラスの男は 

あのとき 確かに こう言った。

 

 

ハートを開くとか

ハートの声に耳を傾けるだとか

 

日本語で「ハート」と聞くと

単に「心」のような気がして

その気になったりもするが

heart とは「心臓」のことだ。

 

血が通う、まさに生きている心臓のことなんだ。

 

言葉の世界で 深刻に遊ぶうちは

(深刻さが遊戯の一つだったなんて知りもしないで)

「ハート」も「愛」も 絵にかいた餅だった。

 

そんな言葉を毛嫌いして、遠ざけたものだ。

 

遠ざけるのは、まだそこに幻を見ていたから。

もはや、遠ざける必要もない。

 

用があるのは、「お前の心臓」なのだから。

 

 

2022/7/31