灌木と、虫と小鳥と「要らない男」

何の木だろう?

名前はわからないが、あまり背の高くない木があって

硬く、濃い葉っぱが

どの枝にも、みっしりと茂っている。

葉っぱの表面には、たくさんの黒い毛虫が

ウジャウジャと蠢き合って這っている。

 

一人の上品な夫人が、木の枝を一本手折り

私に差し出した。

 

「これ、食べられるのよ。あなた、知ってる?」

 

木の枝なんか食べられるものか・・・と、心で思ったが

知っているとも、知らぬとも、あいまいに映るよう

私は黙って小さくうなずいた。

 

「細かく小口切りにして、お湯でアク抜きをしたら

炊飯器で、お米といっしょに炊けるのよ。試してごらんなさいな。」

 

私の左には、男が立っている。

私が婦人と話しているのを、興味ありげに聞いてるふうだ。

 

婦人と話をしながら、私の頭の中は

この男とどうやって別れようかと、そればかりが浮かんでくる。

 

枝入り御飯を作るのなんて、まっぴらゴメンだ。

たとえそれが、思いのほか美味しくできたとしても

男がそれを「うまい!」と褒めたとしても

それが何だというのだ?・・・私は別れたいのだ。

この男と。

 

婦人が去ったあと、数十羽の小鳥がいっせいに木に降り立ってきて

ものすごい勢いで、葉っぱについた毛虫をついばみ始めた。

 

最初、スズメかと思ったが、違う。

私は、その木の名前も、その小鳥の名前も知らなければ

食べられている毛虫の名前も知らないのだ。

そういう、知らないづくしの中で

感情を揺さぶられ、反応するだけの「私」というものに

おさらばしたいのだろう。

 

馴染みはあっても、面倒くさい

私の中の、要らない「男」に。

 

2022/7/17